貸切バス料金の憂鬱

北海道公立小中学校事務職員協議会 会長 常陸 敏男(ひたち としお)

日本バス協会からのお知らせ文書

5月に入り、中学校では部活動の対外試合も本格化してきています。そんな折、顧問の間で「貸切バスの確保が難しい」という声が聞かれるようになりました。また、確保できたとしても、料金が昨年に比べ高額になっているようでした。
たまたま学校に訪れた旅行会社の営業の方から、貸切バスの運賃制度が変わったことを教えていただき、「修学旅行のバス料金も、1.5倍から2倍近くなることも予想される」との衝撃的な話を聞かされました。
中学校では、もうすぐ中体連大会の時期を迎えるため、貸切バスの手配の時期ですが、毎年利用しているバス会社ではほとんど手配が出来ず、旅行代理店を通 してバスを手配することとなってしまいました。顧問からは「バス料金が高くなるが、手配しても良いか」という確認が寄せられますが、他に方法はなさそうです。

さて、今回の制度改正は、過去に発生した高速バスツアーの事故などを受けて国土交通省が運賃制度の見直しを行ったことによるものです。高速バスツアー事 故では、運転手の過酷な労働条件など安全管理の不備が問題となったことから、この改正そのものは安全運行の側面からは当然のことと言えるのではないかと思 います。しかし、その背景には様々な問題があったのではないでしょうか。貸切バス料金はいつの間にかずいぶん低料金になったようですが、これは政府の規制 緩和による貸切バス業者の増加が背景にあるという意見があります。過当競争の中で、バス料金はどんどん値下げを余儀なくされ、そのあおりで運転手の労働条 件が悪化してきたのではないかと、多くの方が感じているはずです。また、この改正では料金の計算が「出庫時」からとなるため、都市部にある会社が料金設定 で有利になり、地方都市の中小業者が淘汰されるという指摘をされる方もいるようです。「規制緩和と規制」という相反する政策に飲み込まれ、厳しくなる人、 より厳しくなる人がうまれるのではないかと心配します。
より厳しくなる人と言えば、修学旅行などのバス料金が2倍近くになった場合、当然ながらその負担は保護者に跳ね返ります。皆さん、それぞれ今年の修学旅 行におけるバス料金を計算してみたらいかがでしょうか。現在でも、就学援助の補助対象経費の上限を超えた料金となっている修学旅行を実施している学校が沢 山あると思いますが、そのような学校が増えたり、上限を超える額がさらに大きくなるかもしれません。対応策の一つは、就学援助基準の引き上げですが、これ には相当な準備と努力が必要になるでしょう。そうすると、学校として、バス料金を抑えた計画を立てることが考えられますが、職場でそういう論議を巻き起こ すことは可能でしょうか。おそらく、多くの職場では、「多少」料金が高くなっても「教育効果」を高めることが優先されるのではないでしょうか。
過去に、修学旅行の費用に関する論議に関わって、「ふらのフォーラム」でお世話になっている日本大学の末冨 芳先生から、次のような問題提起がありました。

「修学旅行そのものを無くしてしまっても良いのでは。修学旅行は教育活動なのだろうか?千葉市では修学旅行を実施せず、農業体験活動を行っている。修学 旅行は学習指導要領に載っているかどうかご存じでしょうか?載ってはいるが、現在の修学旅行が創作の特別活動として意義を持ち得ているのかだろうか?やら ないという選択肢もあるのではないだろうか。やらないことにより、学校現場では負担が減るし、学校の教育活動が修学旅行で一度、途切れてしまったり、業者 への見積もり合わせを丁寧に取られている学校もあり、そういう手間暇が軽減されると思う。私費負担で今までやってきたことが、何でそのお金が取られないと いけないのかという説明が成り立つかどうか、また無償にしたときに無償とすることに説明が成り立つかどうか。義務教育というのは公の教育であって、次の世 代に向けて日本や世界に羽ばたいていく人材を育てていく責任を考えた時に保護者負担や公費が修学旅行費にあてがわれる状況から、修学旅行そのものの在り方 を考える必要があると思います。ただし、給食費や学校教育に係わる活動費は国庫負担から賄われてほしいと思っています。」(2011年12月2日「教育格 差」「子どもの貧困」の解消をめざし、ゆたかな教育を求めるシンポジウム 札幌市で開催 より)

このシンポジウムでは、母親として参加したパネリストからも、修学旅行料金決定プロセスの不透明さが指摘をされるなど、多くの示唆をいただいたシンポジ ウムでした。「学校が提供する教育プランは、それを受ける者の利益になるのだから、相応の負担は当然」という考え方が基にあって修学旅行のプランが策定さ れているのだとすれば、公教育という役割に照らしてどうなのだろう、と、少し立ち止まって考えてみる必要がありそうです。

ただし、私は修学旅行について「思い出づくり派」なので、純粋に「旅」を学ぶ機会として続いてほしいなと思っています。

2014年5月31日